2020年10月2日 - 弁護士平塚湘南ブログ

2020年10月2日 10時20分36秒 (Fri)

錯誤取消とは~民法改正と95条~無効ではなくなったの?

錯誤取消(取り消し)?えっ錯誤無効ではなかったっけ?
民法改正(2020年4月1日施行)に伴い、錯誤無効ではなく、錯誤取消という用語が正しい表現に
なりました。
そこで今回は、「錯誤取消」(錯誤取り消し)とはをテーマに書かせていただきます。

1 錯誤とは?(民法上の錯誤の意味)
  まず前提として、錯誤とは何か?民法95条が規定する錯誤の意味を簡単に説明させていただきま
 す。
  錯誤とは、表示と内心の不合致を言います。
  ポイントは表意者自身が不合致に気付いていない点になります。
  同点で心裡留保や虚偽表示の場合と区別されることになります。
  
  錯誤については伝統的に、それが意思表示のその段階に存するかによって3つに分類されてきまし
 た。

   ア 動機の錯誤
   イ 表示上の錯誤(表示行為そのものに関する錯誤。言い間違い等、円とドルの書き間違いは
    これにあたります)
   ウ 表示行為の意味に関する錯誤(内容の錯誤。ドルとユーロが同じ価値と思っていた結果、
    1万ドルというつもりで1万ユーロといった場合)
     イとウをあわせて、表示行為の錯誤といわれます。

   表示行為の錯誤については、要素に錯誤があれば、従前は無効とされてきました。
   動機の錯誤については、動機が表示されて意思表示の内容となった場合には従前は無効とされてき
  ました。

イ 無効と取り消し(取消)の違い(法律行為の無効・取消の意味)
  次に無効と取消の違いについて解説させていただきます。
  無効とは客観的に見て契約が法的な効力を与えるのにふさわしくない場合です。
  ですから、原則として、特定人の主張を待ってその効力が失われるものではないことになります。
  また、無効について誰からでも誰に対しても原則として主張できるものということになります。
  取り消し(取消)とは、表意者保護の見地から、有効にするか否かの選択権(取消権)が与えられ
  る場合になります。取消権が行使されると、取消の対象となった申し込みや承諾の意思表示が
  取り消されはじめから無効であったものとみなされることによって、契約はその構成要素をかき、
  はじめに遡って無効となるということになります。

ウ 錯誤についてどこが改正されたのか?
 ・旧民法95条条文
  「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。
   ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することがで
  きない。」
 ・改正後の民法条文
  「意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上
   の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
   一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
   二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
  2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされている
   ことが 表示されていたときに限り、することができる。
  3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項
   の規定による意思表示の取消しをすることができない。

  (1)相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったと
    き。

  (2)相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

  4 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗す  
   ることができない。」

」

 同改正は要素の錯誤について集積した裁判例の基準を条文上反映させたものになります。
 裁判例と相関性を持たせて条文を改正させるのは、判例を知らない方でもわかりやすくなるので
 妥当な改正ではないかと思います。相関性は重要です。
  
   で本題ですが、条文上「無効」との文言が無くなり、
  「取り消すことができる」との表現に代わりました。
   ですから、錯誤無効ではなく、錯誤取消という言葉が用語上は正確ということになります。
  
  改正前の民法では、詐欺・脅迫の場合は「取消」、錯誤を理由とする場合は「無効」として
  いましたが、改正後の民法では意思能力に瑕疵がある場合は統一して「取消」という表現に
  なりました。
 
  なお、重度の認知症で成年後見人が付いているケースの成年被後見人の意思表示といった
  意思無能力の場合は民法改正前と同様に「無効」とされております。
エ 改正に伴う実際上の違い
  ではどういった点に違いが生じるのでしょうか?
  まず、取消権者しか取り消せませんので、本人かその法定代理人、相続人等に限定されます。
  ただ、改正前の錯誤無効でも表意者保護の見地から無効の主張権者は同内容に限定されてい
 たと思いますので実質的に変わらないのではないかと思います。
  追認に関する規定が適用されることになります。
  もっとも、取消原因となっていた状況が解消し、かつ、取消権をゆうしていることをしって
 いながらしか追認が認められないので改正前民法における処理と変わらないのではないかと思います。
  第三者との関係では第4項により、善意無過失の第三者には対抗できないとしております。
  ここでいう「善意」とは、知らないという意味です。同点も裁判例を反映させたものであると
  思われますので実務上の影響は少ないのではないかと思われます。
オ まとめ
  少なくとも用語としては「錯誤無効」ではなく、「錯誤取消」が正しくなったのですから
  各契約書類は修正の必要性がございます。改正に伴って実務的に変更が生じてくるかはこれ
  からの判例の集積結果次第ではないかと思います。 

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